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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)715号 判決 1980年8月28日

第七一五号事件控訴人・第九六五号事件被控訴人 (第一審被告) 乙野次郎

右訴訟代理人弁護士 佐久間和

第七一五号事件被控訴人・第九六五号事件控訴人 (第一審原告) 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 鵜澤重次郎

第九六五号事件被控訴人 (第一審被告) 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 佐久間和

主文

一  昭和五四年(ネ)第七一五号事件

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  昭和五四年(ネ)第九六五号事件

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

以下「第七一五号事件控訴人・第九六五号事件被控訴人乙野次郎」を「第一審被告乙野」と、「第七一五号事件被控訴人・第九六五号事件控訴人甲野太郎」を「第一審原告」と、「第九六五号事件被控訴人甲野花子」を「第一審被告花子」とそれぞれ呼称する。

一  第七一五号事件

1  第一審被告乙野

主文一と同旨の判決

2  第一審原告

控訴棄却の判決

二  第九六五号事件

1  第一審原告

(一) 原判決中第一審原告敗訴部分を取り消す。

(二) 第一審原告と第一審被告花子とを離婚する。

(三) 第一審原告と第一審被告花子との間の長男一郎(昭和四一年一月二八日生)及び長女一子(昭和四三年九月一八日生)の各親権者を第一審原告と定める。

(四) 第一審被告花子は第一審原告に対し金二〇〇万円及びこれに対する昭和四九年五月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(五) 第一審被告乙野は第一審原告に対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和四九年五月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(六) 訴訟費用は、第一、第二審とも第一審被告花子及び第一審被告乙野の負担とする。

との判決

2  第一審被告花子及び第一審被告乙野控訴棄却の判決

第二当事者双方の主張及び証拠関係

次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  第一審原告の請求原因

第一審原告と第一審被告花子とが原判決事実摘示第二の一、3の経緯により別居して以来、既に長年月を経過しており、このことは民法第七七〇条第一項第五号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する。

二  証拠関係《省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、第一審原告と第一審被告花子とは昭和四〇年八月二八日婚姻の届出を了した夫婦であり、その間に長男一郎(昭和四一年一月二八日生)及び長女一子(昭和四三年九月一八日生)を儲けたが、第一審原告が第一審被告花子と第一審被告乙野との不貞な関係を疑い、第一審被告花子に対し暴行等に及んだことから、第一審被告花子は昭和四八年七月二〇日ころ第一審原告のもとを出て、実兄丙野三郎方に身を寄せ、その後双方の親類が仲に入った結果、同年八月二六日ころ第一審被告花子が誓約書と題する書面(甲第一号証)を第一審原告に差し入れ、いったん元通りの夫婦生活に戻ったが、同月三〇日第一審被告花子が第一審原告の留守中に手紙の下書き様のもの(甲第二号証はその一部)を書いていたことから、第一審原告は、いっそう第一審被告花子と第一審被告乙野との仲に疑いを深めて、第一審被告花子に対し別居を求め、その結果以来今日に至るまで別居生活が続いていることが認められる。

二  そこで、まず第一審被告花子に対する離婚請求につき判断する。

1  第一審原告は、第一審被告花子は昭和四八年七月ころから第一審被告乙野と不貞行為を重ねている旨を主張する。

(一)  《証拠省略》によれば、第一審原告が第一審被告花子と第一審被告乙野との仲に疑念を抱くに至ったのは、主として訴外丁野四郎が右両名の仲が疑わしい旨を告知したことに端を発することが認められるところ、《証拠省略》によれば、当時第一審被告花子の営む理髪店の隣りで肉屋を営んでいた訴外丁野四郎は、昭和四七年一二月ころの昼ころ右理髪店の待合用の椅子で第一審被告花子と第一審被告乙野とが一緒にすしを食べていたのを目撃し、また昭和四八年ころには第一審被告乙野がしばしば昼すぎころに右理髪店に赴くのを目撃していること、同年五月ころ第一審被告花子が第一審原告から電話先に疑いをもたれ、訴外丁野四郎に対し同人に電話をかけていたことにして呉れと頼んだこと、日時は必ずしも明らかではないが、第一審被告花子が第一審原告から衣類の入手先に疑いをもたれ、訴外丁野四郎の妻に対し同人から貰ったことにしてくれと頼んだこと、昭和四八年当時第一審被告花子と第一審被告乙野とが一緒に自動車で出掛けたとか、夕刻道端で話をしていたとか、あるいはよる学校の入口で話をしていたとかいう風聞があったことを認めることができるが、しかし、右各証言によるも訴外丁野四郎がそれ以上の事実を見聞している事実は認められず、右の程度の各事実からでは第一審原告主張の不貞行為までを推認することはできない。

(二)  前掲甲第一号証によれば、第一審被告花子が昭和四八年八月二六日ころ作成した誓約書と題する書面には、不倫行為を自認する趣旨の記載があることが認められる。しかしながら、《証拠省略》によれば、第一審被告花子は当時そのような行為を自認していなかったことが認められ、《証拠省略》によれば、第一審被告花子は、もとの家庭生活に戻りたい一心から、書面の内容は不本意であったが、署名し拇印を押したことが認められるから、右甲第一号証は、第一審原告主張の不貞行為を推認せしめるに足りない。

(三)  前掲甲第二号証と原審及び当審における第一審原告の各本人尋問の結果によれば、第一審被告花子は昭和四八年八月三〇日広告の裏に第一審被告乙野に愛情を寄せているかの如き内容の手紙の下書き様のものを書いていたが、第一審原告に目撃されるや、右下書き様のものを口の中に入れてしまった事実が認められる。しかしながら、原審及び当審における第一審被告花子の各本人尋問の結果中には、誰に見せるためでもなく、自分の気持の整理として書いていたに過ぎない旨の供述があり、また甲第二号証は破れたものの一部であるため全内容を確知し得ず、何人かに宛てて書かれたものであるか否かも判定し難いから、右甲第二号証も第一審原告主張の不貞行為までを推認せしめるには足りない。

(四)  《証拠省略》によれば、右一〇月二三日午前四時二〇分ころ第一審被告乙野の自動車が第一審被告花子が別居後肩書住所地M町で開いた理髪店の近くに駐車してあり、同日午前七時二〇分ころ第一審被告乙野が右車に乗り込んだ事実、右三月一日午前四時ころ第一審被告乙野の自動車が右理髪店近くの空地に駐車してあった事実が認められるが、《証拠省略》によれば、当時右理髪店の一部は物置となっており、建築鈑金業を営み、当時M町住宅のトタン工事を請負っていた第一審被告乙野は、第一審被告花子の兄戊野五郎の了解を得て、右物置を材料置場に使用させて貰っていたこと、早朝に材料の出入れをしたこともあることが認められるから、前記事実は必ずしも第一審被告花子と第一審被告乙野との不貞行為を推認せしめるに足りない。

以上によれば、第一審被告花子に第一審原告の疑いを招く行動のあったことは否定し得ないにしても、右各事実はいずれも第一審原告主張の不貞行為までを推認せしめるに足りないのみならず、これらを総合してもそのような事実を推認せしめるに足りず、他にもこれを認めるに足りる証拠はないから、第一審原告主張の不貞行為は、その立証なきに帰する。

2  第一審原告は、第一審被告花子と別居以来すでに長年月を経過しており、このことは民法第七七〇条第一項第五号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する旨を主張する。

よって検討するに、第一審原告が第一審被告花子と第一審被告乙野との仲を強く疑い、別居を要求したことに起因し、第一審原告と第一審被告花子とは昭和四八年八月三〇日以来別居が続いていることは前記認定のとおりである。しかしながら、《証拠省略》によれば、第一審被告花子は第一審原告から不貞行為を強く疑われ、別居を迫られた結果、不本意な別居生活に入り、昭和四八年一二月には千葉家庭裁判所一宮支部に夫婦関係調整の調停を申し立てたことがあるものの、現在においては第一審原告が第一番被告を受け容れ、正常な家庭生活に戻ることを強く希望しており、そのような生活に戻れたときは、夫に尽くし、子女に愛情を注ぎ円満な家庭をつくるよう努力する決意でいること及び別居は長年月にわたっているが、この期間は主として昭和四九年五月千葉地方裁判所一宮支部に提起された本訴の第一、第二審の審理に費やされた期間であり、この間第一審原告、第一審被告花子双方ともひとり身の生活を続け、第一審原告は長男一郎を、第一審被告花子は長女一子をそれぞれ養育しているが、一子が第一審原告方に、一郎が第一審被告花子方にそれぞれ遊びに行くこともある状況であることが認められる。そして、第一審原告の第一審被告花子に対し抱いている不信は、ほとんど専ら第一審被告乙野との不貞行為の強い疑いに起因するものであることは前示のとおりであるから、本訴においてその事実は認められないと判断された今日、右認定の第一審被告花子の決意並びに第一審原告及び第一審被告花子双方及び子女の生活状況をも併せ考えると、第一審原告において第一審被告花子と元通りの夫婦生活に戻ることが期待できないわけではないと推認される。以上の事実からすれば、いまだ夫婦関係が破綻し、その復元の見込みがないとは認め難く、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとはいえない。

3  してみれば、第一審原告主張の離婚事由は存在せず、第一審被告花子に対し離婚を求める第一審原告の請求は、理由がない。

三  次に、第一審被告花子及び第一審被告乙野に対する損害賠償の請求につき検討するに、右請求は右両名の間の不貞な関係を原因として請求するものであるところ、そのような関係を証拠上認め得ないこと前記認定のとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく、右請求は理由がない。

四  してみれば、原判決中第一審原告の第一審被告乙野に対する損害賠償請求を一部認容した部分は失当であるので、第一審被告乙野の控訴に基づいて、これを取り消し、右請求を棄却すべきであり(第七一五号事件)、原判決中その余の部分は、その結論において正当であるので、この点に関する第一審原告の控訴は棄却すべきである(第九六五号事件)。

よって、民事訴訟法第三八六条、第三八四条、第九六条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉本良吉 裁判官 三好達 柴田保幸)

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